あのマツダが・・・5チャンネル化が産んだ「クロノスの悲劇」とは? | CARTUNEマガジン
あのマツダが・・・5チャンネル化が産んだ「クロノスの悲劇」とは?

2018年02月27日 (更新:2020年08月28日)

あのマツダが・・・5チャンネル化が産んだ「クロノスの悲劇」とは?

皆さんは「クロノス」というクルマをご存知でしょうか?1991年にマツダが発売したこのクルマが引き金となったマツダの経営危機「クロノスの悲劇」についてご紹介します。

「クロノス」って?

マツダ・クロノスはそれまでマツダの基幹車種としてファミリアとともに社を支えてきたカペラの後継としてデビューしました。

時は1991年、日本はバブル経済の真っ只中で、日産・シーマや三菱・ディアマンテなどライバル他社の売れ筋商品が軒並み3ナンバー車になっていることを受け、カペラよりワンランク上の3ナンバーワイドボディが与えられました。

そしてこの車格変更を機に今までの「カペラ」の名前を捨て、「クロノス」の名前を冠することとなったのですが・・・

ユーノス、アンフィニ・・・マツダの5チャンネル化

マツダ5チャンネル
引用元:CARTUNE

時を同じくして、国内自動車メーカー各社は「販売多チャンネル化」の方針を続々と固めていました。これは従来までのように同一メーカーすべての車種をどのディーラーも一様に扱うのではなく、ディーラーによって扱う車種のラインナップを変え、販売力をアップさせることを目的としていました。

例えば、ホンダでは「プリモ」「クリオ」「ベルノ」、日産では「サニー」「プリンス」といった具合です。

マツダは大手国内メーカーの中ではブランドイメージがそれほど高くなかったことから、多チャンネル化によってイメージの刷新を図ることに躍起でした。

こうして生まれたのが「マツダ」「オートザム」「アンフィニ」「ユーノス」「オートラマ」のマツダ5チャンネル体制です。

そして「クロノスの悲劇」へ・・・

引用元:CARTUNE

マツダ5チャンネル体制ではあまりブランド力のない「マツダ」の名を隠すことで、消費者に新鮮な印象を与えようとしました。その中で「アンフィニ・RX-7」「ユーノス・ロードスター」「オートザム・AZ-1」などの名車が生まれました。一方でもともと販売車種の少なかったマツダは、多チャンネル化を推し進めたことで、販売車種を一気に拡充する必要に迫られました。

そこで、同一車種のエンブレムのみを変更した「バッジエンジニアリング車」やボディデザインを変更した「姉妹車」を用いて半ば強引に車種を増やす羽目になりました。

その犠牲となったのがクロノス。「アンフィニ・MS-6」「マツダ・MX-6」「アンフィニ・MS-8」「ユーノス・500」「オートザム・クレフ」「フォード・プローブ」「フォード・テルスター」・・・

クロノスという一台の車からこんなにもたくさんの「新車種」が乱造されることになったのです。

これが「クロノスの悲劇」の引き金となったのでした。

経営危機!マツダ逆転の復活劇

引用元:CARTUNE

しかし、消費者にしてみればどれも似たようなクルマに見える上、「スポーティーなアンフィニ」「軽自動車のオートザム」といった各チャンネルごとの個性もよくわからないものとなってしまいました。また、慣れ親しまれていたマツダの名前を車から捨てたことで、まだ知名度の低いブランド名に頼らざるを得なくなり、結果としてマツダは販売不振に陥ってしまいました。

そこに決定打となったのがバブルの崩壊でした。こうした流れを受け一時は提携していたフォードに経営権を握られるまでになってしまいました。

経営危機の中、新規車種を開発する財力もないという悪循環に陥ったマツダでしたが、1996年、起死回生の一手に打って出ます。それが「デミオ」でした。

限られた開発予算の中、既存のコンポーネントを流用し、「コンパクトサイズのミニバン」というシンプルなコンセプトで、デザインこそ新鮮味はないものの実用性をとことん突き詰めたことがバブル崩壊後の市場ニーズと合致し、現在まで続く大ヒット商品になりました。そしてマツダは深刻な経営危機を脱することができたのです。

マツダを復活させたデミオは「マツダの救世主」「マツダのカンフル剤」ともてはやされました。

引用元:CARTUNE

この経営危機を脱したことで企業体力をつけたマツダはその後も他社にはない新たな車種やメカニズムの設計開発に取り組み、共通のデザイン言語である「魂動デザイン」の導入や、環境問題に対応する新世代エンジン技術「スカイアクティブ」では業界トップのトヨタに技術提携を持ちかけられるほどになりました。

まさに奇跡の逆転劇と言えるでしょう。

さいごに

このマツダ5チャンネル化にまつわる話が語られる際、その後のマツダの経営危機についてばかりフォーカスされてしまいますが、本当の「悲劇」の被害者は、当事者である「マツダ・クロノス」自身だったのではないでしょうか。

バブル期の設計らしく当時世界最小と謳われたV6エンジン搭載車もラインナップするなど決して商品力に劣るわけではなかったクロノスを「黒歴史」のように扱われるのは心が痛みますが、そのおかげで今の「MAZDA」があると考えると感慨深いものがあります。

今、クルマ界隈では「ハチマル車」「キューマル車」とよばれるネオヒストリックな車たちが人気を博しています。経営危機の引き金としての「クロノス」ではなく、違う切り口からまた「クロノス」が注目される日が来ることを願いたいですね。

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