シビックの村上春樹 文体模写に関するカスタム事例
2018年08月08日 23時19分
「もし村上春樹がタイプRに乗ったら」
「この車、うるさいわ」と彼女は言った。まるで教室の壁に取り付けられた掲示板の文字を読み上げる時のような声だった。
君がこの車から降りようと降りるまいと、僕の人生には何の影響もない。そのことについて僕は何の興味もないし、何かを言う権利もない。ただ、僕がこの赤いシートに座っているという事実があるだけだ。
降りたければ降りればいい。降りたくなければ流れていく景色を漫然と眺めているのもいいだろう。あるいは、その小洒落たバッグから少し顔をのぞかせている薄っぺらな雑誌を読むのもいいだろう。君が何をしようと自由だ。
ただ、時速60キロで走行中の車から飛び降りるなんてことは、ヴェテランのスタントマンでもないかぎり不可能だ。君は10億年以上堆積を続けた地層のような、この重苦しい時間と空間に耐え続けなければならない。好むと好まざるとにかかわらず。
「この車、乗り心地が悪いわ」真っ白な画用紙を眺める時のような目で、彼女は僕の方を見ながら言った。あるいは車窓の景色を見ていたのかもしれない。
僕はこの車に関して持ちうる限りの知識――エンジニアの熱き魂、VTECの構造、ギア比、赤いエンブレムに込められた思い、デスビの弱さ――を叩きつけるように彼女にぶつけた。だが彼女は経年劣化したコンクリートのような表情をゆるめることはなかった。
確かに足回りは四輪を金属製の松葉杖で支えているかのように固い。だが、それ以上でもそれ以下でもない。
ただ、一つだけ確実に言えることがある。
完璧な車高調は存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。
私のくだらない遊びに最後までお付き合いくださった方、ありがとうございました😇