SLのSLと私 ⑦・追憶に関するカスタム事例
2023年10月23日 18時54分
少しさかのぼりまして、神戸へSLを里帰りさせる前のお話です。
錆について。
酷い錆の我がSLでした。いつものように、地元の自動車屋の社長に相談していました。
社長は‥
「鈑金は俺の専門外。腕のいい鈑金屋を紹介することはできるでー。ちょっと、コツ(←無骨)な人だけど、紹介してやるから、見せてみな‥。」
その場で鈑金屋に連絡をとってくれました。
事故が多い季節の冬場は、鈑金工場はどこもてんてこ舞い。春になり、時間を多めにもらえれば引き受けると承諾してもらえたようです。そして、とりあえず近いうちに見せに来い‥とのこと(笑)
帰りぎわ、社長に、
「銭がかかるだろ。うちでできるところはやるよ。でも鈑金の方は、俺はノータッチ。値段の交渉やら払いやらは、鈑金屋と直接やりなよ。」
社長にお礼を言うと、続けて‥
「クラシックカーは修理に金がかかっても、その金がそっくりそのクルマの価値にのっかるかっていったら、そんなことはないんだでー。やっぱり250万のクルマは250万ぐらい。修理に200万かけたって、450万にはならないでー。それだけは承知で、楽しみな(笑)」
本当に良い性格です(笑)
一度車の状態を見てみたいとのこと、そして、アクセルペダル下の錆穴の緊急補修をお願いするために、鈑金工場へSLに乗って出向きました。
みるからに頑固そうな親父さんがいました。
軽く挨拶を交わすと、早速SLの下見です。
「懐かしいなぁ。この頃のクルマは良かったなぁ。鉄板厚いし‥。今のはペラペラだからなぁ^ ^」
「おっ、このクルマ、鉄とアルミを上手に組み合わせてあるなぁ。でも、アルミは面倒だぞ。」
強面の親父さんの顔がにこやかに‥この人もクルマ好きなんだなぁと。
私は、「クルマ好きには基本的に悪い人はいない」と思っております😚
「錆はタチが悪いからなぁ。切って溶接して直しても、いずれその熱がかかったところが錆ることもあるんだよ。」
「こりゃダメだ。水抜きの穴が塞がってる。水抜きがうまくいかないとそこから錆が進んでいくんだ」
しばらくした後‥
「俺も色々持ってるんだよ。見ていく?」
と言って、私を工場の奥に連れていってくれました。
そこには、ところ狭しと旧車が置かれていました。
初代ビートルの初期型、W111.ベンツ190、名前は忘れましたが大きなアメ車(インペリアル?…テールフィンでした)、黒塗りのクラウンセダン(美しい日本の‥の型)、そして、縦目の黒塗りのSクラスなどなど。
私が興味を持ったのは、同じ縦目ということもあり、Sクラスでした。
「それは県の公用車。珍しいのあるから見せてやるよ。」
そういうと、そのクルマのドアを開けて、中から書類を取り出し見せてくれました。
払下通知でした。
すでにナンバーは外されていましたが、車に貼ってある車検のステッカーが昭和50年代中盤だったと思います。
「このクルマ、〇〇知事が乗ってたクルマだよ」
知事を何期も務めた有名な方の名前でした。
公用車について、私の住む長野県でも、ちょうどその頃、ひと騒動起きていたのです。
冬季五輪が終わって、役人出身で長期に渡り知事を務めた方が高齢を理由に引退し、選挙で「タレント」出身の知事が誕生していました。
その方はいろんな斬新というか、唐突なことを言いだして、今まで続いてきた慣習を次々にひっくり返して‥。
それまで、県知事公用車は「センチュリー」で、長野県の物も、多分モデルチェンジ直後に替えた現行センチュリーだったと思います。
その「センチュリー」を「権力の象徴みたい。もったいない。」と言い売却し、知事専用車を初代プリウスにしました。そこまでは良かったのですが、翌年はエスティマハイブリッドに。そして、次の年は、そのエスティマを東京事務所のセンチュリーと入れ替えて、長野の公用車はアルファードハイブリッドに‥といった具合でコロコロと替えたのが問題になっていました。
ボディーの色もカタログではなく、実物を見て選びたいと、言ったとかいわなかったとか‥(笑)
知事と対立していた議会は、エスティマとアルファードが本革仕様の最上級グレードだったことも突き、「いまだかつて、県知事公用車で革張りのシートのクルマは無かった。しかも、毎年の乗り換え。それこそ、贅沢だ!」と主張し、論争を繰り返していました。
本革は確かに贅沢だけれど、クロスやモケットの方が高級な場合もあるけど(笑)
昔は、ベンツの知事車ってのもゆるされたんだなぁ‥良い時代だったんだなぁ‥と思いました。
室内は真っ白なフルシートカバーがされていて、後ろのスピーカーボードからは筒状の後席専用のクーラー吹き出し口、ベンコラで厚みのあるシートでした。
左に250S(?)、右には私のSLと同じ「Automatic」というエンブレムがついていました。
埃は被っていましたが、ウェスタン自動車の正規モノ、しっかり手入れされてきただけあってなかなかの上物でした。
話が逸れましたが、本題のSLについて‥
「とりあえず剥離してみないとなんともいえないなぁ。まあ、春になったら預けてみて。」
そんな感じでした。
そして、その時に新たな事実もわかりました。
過去に追突され修復が行われたような形跡があると。リア部分の下回りを覗いた親父さんは、左右の些細な形状の差を見逃しませんでした。
「押されたみたいだなぁ。引っ張りだした痕があるよ」
私には、わかりませんでしたが‥(^_^;)
信頼できそうな親父さんに出会えて良かったなぁ‥と思いました。
その出会いの日から、親父さんとのお付き合いが始まりました。しかしながら、その親父さんも今から数年前に亡くなられました。まもなく、工場は廃業し、取り壊され、隣にあったメーカー系ディーラーが買い取ったようで、新しいショールームが建ち、何も形跡が無くなりました。
親父さんとの思い出、そして、あの縦目のSはどこに行ったのかなあ‥たまにそこを通るたびに、そんなことを思います。
つづく