SLのSLと私 ⑨・追憶に関するカスタム事例
2023年10月25日 18時33分
私がちょうどSLを手に入れ、夢中になっていたその頃に見たベンツの専門誌に、600のランドレーのフルレストアの記事がありました。
その個体は、どこぞの国の王家の所有だったようで、パレードにも使えるようにと後部がオープンになるランドレーで、希少中の希少といったクルマ。保管状態が悪かったようで、ボディは錆び錆び、室内も無数の虫の死骸が散乱して‥。
壮絶なるレストア作業の様子が載っていました。
私にとって、自分のクルマをレストアするのはもちろん初めてのことだったのですが、その記事をみて、不安を通り越して、諦めにも似た気持ちになりました。もっとも、不器用な私は、実作業は全て業者さん任せ‥、主な心配は、「銭」でした(笑)
いよいよ、ボディレストアに着手です。
とりあえず状態を確認するため、フロアーパネルに施されているアンダーコートを剥離するために、最低限必要な部分だけ、ワイヤーやシャフトなどを外してもらい、鈑金屋へキャリアカーで搬送してもらいました。
その数日後、鈑金屋の親父さんから、
「なんとか、はげたよ(←親父さんの頭はうすかったので、ウケて、噴き出しそうに^ ^)。近くに来る時、寄ってみて。」
という連絡を受け、出向いてみました。
ジャッキアップされたSLの下を見ると‥
やはりフロアーパネルのいたる所に、無数の錆が出ていました。でも、幸いにも、穴があくような深刻なものは、私が確認していた運転席のアクセルペダル付近のもの、そして運転席後ろのパネルのみでした。
「サンダーかけて、錆止め入れれば、綺麗になるよ。良かったな」
親父さんはそう言いました。
しかし、続けて‥
「それよりも‥だ。こっち見て。」
親父さんがハードトップを指さしながら、そう言いました。
「わぁ!何だこれ!」
ハードトップに、まるで衣服が虫に食われて穴があいたような、そんな穴が空いていました。
私のSLには、ハードトップにサンルーフが付いていました。神戸の社長も「これは珍しいですよ。」と言っていました。
ハードトップを付ければクーペ、オープン、そして幌‥三通りの楽しみがあるSLですが、私のSLは四通り、ハードトップの時も天井から空気を取り入れたり空を感じながら走ることができました。残念ながら、スライドのみでチルトアップ機能はありませんでしたが‥。
最初は「後付けかなぁ」と思っていましたが、後に読んだSLの本で、オプション設定が確かにあったことを確認しました。
その自慢のハードトップに穴が‥(>_>)
「アルミホイルを丸めて突っ込んでパテで帳尻合わせて色吹いてあったよ。一通りノックしてみたら、ここだけ音がおかしかった(笑)」
「いつ頃、やったみたいです?」
「なんとも言えないけど、最近ではないと思うよ。」
ちょっと安心しました。SLを手に入れてから、私は少し人間不信で、見聞きしたことをまず疑いの眼をもってみるようになっていました。この前夕食を共にして神戸の社長を「いい人だなぁ」と結論づけていた私でしたので、もしその補修が神戸の社長の仕事で、私には隠されていた事柄だったとすれば(T . T)‥ホッとしました。
「このグリルの歪みもきになるなぁ。」
親父さんが指摘したのは、私も気になっていた部分でした。
SLのフロントグリルは分割されていて、真ん中の桟敷部分とベンツマーク、そしてまわりを取り囲んだフレームが別体で、私のSLは、ちょうどセンターの上部が浮き上がった状態になってました。無理矢理はめ込んだためにうまれたような歪みでした。
「じっくりやるさ。」
親父さんはそう言いました。
親父さんに、神戸の社長がコピーしてくれたパーツリストのコピーを渡し、必要な部品に記しをしてもらうことをお願いし、工場を後にしました。
予想外(ハードトップ)のこともありましたが、自分が想像していた程の悪い状態ではなかったことに安堵しながら、帰りました。
つづく