SLのSLと私 ⑧・追憶に関するカスタム事例
2023年10月24日 18時30分
神戸に里帰りしたSL‥約1カ月ほどたったある日、点検が終わったという連絡がきました。
調子をみるということもあり、社長が長野まで自ら回送してくれるとのことでした。
約束の日の夕方、SLが長野に戻ってきました。やはり、神戸⇄長野は遠いです。
きっと社長も疲れたと思います。
「今度は大丈夫だと思います。」
社長は開口一番そう言いました。
時は4月、春の遅い長野も、桜が咲こうとしていた頃で、もうすっかり日も長くなっていました。
日没前、社長と私は試乗に出かけました。
「アイドリングの回転数の調整、燃料の濃さの調整、ホース類も含めてラバーパーツも一通り点検してあります。」
エンジンのかけ始め、また信号待ちの時、アイドリングが不安定で、時折エンストを起すことがあったのですが、アイドリング時のエンジン回転を少し高めにしてもらい、そのような症状も改善されていました。
ほぼ満足のいく状態でした。
日没して暗くなり、夜になろうとしていました。私は社長を夕食に誘いました。
夕食をとりながら、社長と色々な話をしました。考えてみると、社長とはSLについての話をするばかりで、じっくりと他の話をすることはありませんでしたので、色々興味深く話をしました。
若い頃にオールドベンツの存在を知ってのめり込み整備士になったこと、苦労して自分の工場を持ったこと、オールドベンツに対して独学で勉強したこと、そして、本国のパーツリストや整備要領を読みとくためにドイツ語などの語学を勉強したこと‥などなど。社長は結婚していて、奥さんと小さい娘さん(←確か?)と今はアパート暮らしをしているようでした。まだ、人を雇う余裕がなく、販売から整備まで1人でこなし、人手が必要な時は遊びにきたクルマ好きの友人に手伝ってもらっているようでした。そして、朝から晩までオールドベンツにのめり込む毎日‥。
まるで、少年が気にいったおもちゃにのめり込んでいるような‥そんな純粋な人柄を感じました。
いよいよ本題について聞いてみました。
むしろこの点検で重点を置いてもらったのは、錆の問題です。
どの程度の錆が出ているのか、そして、修復にはどれだけの部品が必要になるかが一番気がかりでした。
クルマにとって重要なものは、機関もさることながら、もっとも大切なのはボディーだと私は考えていました。
機関は、かなりひどい状態になっていない限り、「質実剛健」で作られたドイツ製ですので、修理や調整でいけると私は考えていました。
「指摘された通り、所々で錆が進行しています。でも、長い年月を経たクルマに発生する常識的な錆の範囲です。深刻なものはないと思います。」
そういうと、持ってきたパーツリストにある図面をみせてくれました。
私は当初、SLのフロアパネルは一体式になっていると思っていましたが、パーツリストの絵は想像と違っていました。
部分部分でコマ切りにされたパネルは、分割しての取寄せが可能。例えば、運転席のフロアもその部分だけのパネルで部品番号がふってあり、オーダーできるようでした。
「鈑金屋さんと相談しながら、言っていただければ、私が部品を供給できます。」
もう一つ気がかりだったのは、どの程度のレストアになるのか‥でした。
せっかく機関類の問題がクリアーできたのに、鈑金のために、エンジンや補機類を外すことになれば
最悪また調子が崩れ、また振り出しに戻ってしまう‥心配でした。
「なんとも言えませんが、私のみる限り、骨格は錆ていないと思います。パネルの交換などで多分大丈夫なので、ホース類は外すことになったとしても、エンジンを下ろす程の作業にはならないと思います。万が一、そうなったとして、また不調になったとしても、持ち込んでもらえればまた私が調整しますよ!(笑)」
笑顔でそういう社長を見た私は、
「この人、タフだなぁ。」と思いました^ ^
500キロも旧車を走らせることが苦痛じゃないのか尋ねましたが、
「普段は整備ばかりで、こういうことでもない限りオールドメルセデスを走らせて楽しむことがないので(笑)」
社長にとって、この仕事は天職で、自分が好きなことを仕事としている姿に、尊敬と羨ましさを覚えました。
夕食後、社長はトゥデイで神戸へ向け帰って行きました。(代車をオールドベンツにしておけば、行き帰りで楽しめたのに(笑)←私はそう思いました^ ^)
その後、部品の注文などで電話でのやり取りはありましたが、幸いなこと(←(笑))に、SLの機関のコンディションも大きく崩れることはありませんでしたので、社長と直接会う機会はありませんでした。
今でもそのお店を懐かしく思い、時折、ホームページをのぞいています。
私が訪ねた時は車庫を改造しただけの町工場といった感じでしたが、少し前に、リニューアルされ、社業は確実に発展されたようでした。
つづく