RX-7のNA8Cさんが投稿したカスタム事例
2022年03月16日 15時05分
ロードスターNAから乗り換え、FD3S1型に乗ってる20代男性です(車と同じ年齢です)。今のところほぼノーマルです。ノーマルで末長く乗っていきたい気持ちと、弄りたい気持ちが常に拮抗しています。 初心者ですが、日記を書くような気分で始めてみました。よろしくお願いします。
今月でついに初年度登録から30年が経った。
この一年ちょっとで既に20000キロ以上走り、オドメーターはもうすぐ90000キロを超える。2000キロ毎に交換するエンジンオイルの空き缶で玄関前が埋まりつつある。
去年はラジエーターが破損して冷却周りを一新した。今年に入ってから完全に機能停止したエアポンプを交換した。思っていた以上に、至る所にガタが来ている。先日、社外の水温センサーをつけようと、サーモスタットカバーを交換しに専門店に行った。なんの気なしについでに各所の点検を頼んだら、笑ってしまうほどの故障箇所を指摘された。
スロットル-サーモスタット間パイプクーラント漏れ、スロットルOリングオイル漏れ、ノックセンター故障、プラグコード劣化、リザーブタンク劣化、インマニガスケット破れ、プライマリタービンオイル漏れ、パワステホースフルード漏れ、エアフィルター劣化、吸気音センサー故障、ヒーターからクーラント漏れ、シフトレバーぐらつき、ハンドルセンターずれ、デフマウント切れ、クラッチ摩耗、リアアッパー&ロアアームピロボールがたつき、フロントスタビリンクがたつき、左右タイロットエンドがたつき、触媒クラック&排気漏れ、左右ドライブシャフトブーツひび割れ、フロントロアアームダストブーツひび割れ。
ただ、このあたりの故障はある程度無視できるものだと思う。故障というか、むしろ疲労に近い。それは30年という年月に相応しい健全な摩耗であり、人間で言えばちょっとした高血圧のようなものだ。
ショックだったのは、ローターハウジングとサイドハウジングの間に隙間が生まれて燃焼室内に冷却水が混入する、いわゆる「水食い」の兆候が見られたことだった。それはロータリーエンジンの構造上避けられない病で、すべての車がいずれ発症する。完治させるにはエンジンの載せ替えしか方法がない、車の癌だ。
界隈では有名なロータリー専門店の主人は、30年間走り続けた1型FD3Sに最大限の敬意を払いつつ、慎ましく癌を宣告した。必要以上に言葉を濁すことなく、発症した部位を模型を使いながら的確に説明する主人の手慣れた姿から、これまで何十人ものオーナーが同じように宣告を受けたことが想起された。
宣告の後には、心に余裕を持って多めに見積もっていた悲観的な想像を遥かに超える、途方もない金額の治療費の提示がなされた。その説明には車屋特有の計算高さとある種の誇張があっただろうが、それを差し引いても恐ろしく高額だった。冷静に考えればこれだけの金額を払って一台の車を治すのは全く馬鹿げている。同じ額を払えば快適な新車が買えるのだ。現代の経済学はここまで非合理的な行動を取る人間をおそらく想定していない。
治療費の説明の段になって、きっと何人ものオーナーがこの車を手放すことを決めたはずだ。私もその一人になってしまいそうだった。
それから数日が経ち、とある駐車場でボンネットを開け、宣告を受けてから助手席に常備するようになった2リットルの補充用クーラントをリザーブタンクに注入していた時、背後から見知らぬ男が近づいてきた。気づくと、隣には68年式のフォード・ブロンコが停まっていた。とてもその年式には見えない、水色の完璧なオールペンがなされていた。
男はエンジンルームを覗き込んで言った。
「綺麗にされてますね」
お世辞にも綺麗とは言えない、30年の年月がそのまま刻まれたエンジンルームを前にして、男は平然と言った。
夜の暗闇が長年の汚れを溶かしてくれていたのか、男の審美眼が狂っていたのかは分からない。だがその言葉は、壊れゆくものを受け入れながら愛することを知った者にしか発することのできない、美しい言葉だった。
それは私にとって、この車を維持することを改めて決心させるのに十分な響きを持っていた。
(写真は某サービスエリアで白煙を吹くエンジンに焦る自分)